時雨と紅葉。

二十五話 時雨と紅葉

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 時雨は緊張で硬くなった小さなからだを抱き上げて、寝室のベッドに運びながら、小さなからだにキスを落とした。

 

 ベッドに横たえると、あきは緊張した面持ちで時雨の首から両腕を抜き取り、居心地悪そうに目をそらしながら着ていたシャツに手を掛ける。けれど、時雨の手がそっと阻んで、小さな細い手をベッドへ縫いつけた。

 

「し、ぐれ?」

 

 先程まで明るいリビングにいたからか、真っ暗な寝室はまだ目が慣れないというのに、不思議と不安そうな双眸だけは色濃くきれいに光っている。

 

 まるでこれから起こることが予想できないといわんばかりに。

 

(これは思ったよりも……

 

 手強い。

 そんなふうに思いながら、時雨は押しつけた手のひらを開いて、時雨の指と絡める。

 

「おまえは何もしないで。俺がするから、ただ気持ちよくなってればいいの」

……きもちいって、な……っんぅ」

 

 言い終える前に、時雨のくちびるが、あきのそれをやさしく塞ぐ。ついばむようなキスをしてやると、緊張していたからだがすこしずつやわらかく開かれていった。

 

 時雨の指先が遊ぶようにあきの髪の毛をさらさらといじる。あきは目の前で繰り広げられる行為と、自分が想像するものとが随分乖離していたからだろうか、困惑したようにぎゅうっと目をつむっている。

 

 息が上がってきて、あきのくちびるが酸素を求めて開かれたタイミングで、そっと舌を差し込んだ。ぴくりと跳ね上がって逃げようとしたそれを捕まえて、絡める。だんだんと、いつも通りかもしれないと、安心していたからだが、違うことに気づいて火照りながらまた緊張していく。

 

……ん、ふ……ぅ」

「苦しい?」

 

 くちびるを合わせた隙間から、くぐもった声とともに、小さく頷かれる。息の仕方も知らず荒くなる呼吸に、時雨は逃げられないように口内を探りつつも、時折すこし空気を入れてやる。

 

……し、ぐれ……っ、や……なにっ……なんか、ちがう……?」

 

 いつもよりも赤く上気したはだけたぶかぶかな服の隙間から差し入れた指先が、探るようにしてあきのからだを這う。素肌が触れたことに気づいて、小さなからだがぴくりと跳ねる。

 

……っ」

 

 あきの薄い胸を撫でて、小さな中心の飾りにふれると、小さなからだは、今度は、大きく跳ねた。――と、そのとき、空いていた方の手で、弱々しく距離を取るみたいに胸を押されて、無視していたら本格的に足をばたつかせて抵抗してくる。仕方なく、やわらかい口内を犯していた舌を抜いて、くちびるを放す。

 

……なに」

 

 キスのせいで息を弾ませたあきと目が合うと、いつの間にそうなっていたのか、顔をゆでだこのようにしたあきが、乗り上げている時雨から逃げるように顔をそらして、ベッドを出ようとする。時雨はそのからだを捕まえて、今度はやさしく抱きしめた。

 

……悪い、あき。なんか怖かった?」

 

 ちょっとがっつきすぎたかもしれない。そもそも恋愛初心者なのだから、もうすこしゆっくりするべきだったか。それとも、何かトラウマにふれたか。そう思うが、あきは闇雲に暴れながら時雨の胸から出ようとジタバタしている。

 

「おい、こら」

「や……っ、も、しない……!」

「はあ……悪かったって。暴れるな」

 

(やっぱり怖がらせたか)

 

 時雨は安心させるようにあきのからだを抱き寄せて、まだ赤く上気したからだをあやすようにぽんぽんと撫でる。すると、あきの両目からまるでガラス玉のようにポロポロと涙がこぼれた。時雨がぎょっとするのと同時に、こらえきれないのか、嗚咽のようなそれが噛み締めたくちびるの隙間から漏れる。

 

 嘘だろう。

 こいつが泣いたところなんて、あの夏祭りの日とつい先ほどくらいだぞ。そんなにショックだったのか。

 

「あー……ごめん。怖かったな」

…………ちが……っ」

「ほら、こっち来な」

 

 時雨は慌ててあきのからだをベッドから起こすと、いつもそうするみたいに膝の上に乗せてやる。あきはぐずりながらも素直に時雨のからだから降りようとした――そのとき、時雨はようやくあきの身に起こった違和感に気づいた。

 

「あき」

……っ」

「おまえ、勃ってる?」

「た、つ?」

 

 あきは時雨のことばの意味が良くわからなかったらしいが、良く観察してみると決してトラウマがぶり返しているような表情ではないし、むしろ見たことのないほどに赤く上気している。それに、どうして今自分の膝から降りようとしたのか――色々と考えて、ようやく合点がいった。

 

 距離を取ろうとする小さなからだを捕まえて、パンツの上からそれにふれてやる。手のなかでそれがたしかに存在を示している。

 

「や……やだぁ……っ」

「おまえ、こういうの今までなかったわけ?」

「むずむず……へん。ぼく、もう、しない……っ」

「さわられるのは、いやじゃなかった?」

……はずかしい」

 

 両手で顔を覆って胸の中に顔を埋められてしまったので、あきの表情はわからないが、おそらくりんごよろしく真っ赤にしているのだろう。無理やり拝んでやることも考えたが、真っ暗な中では十分に堪能できないだろうし、今そんなことをすればキャパオーバーで爆発するかもしれない。時雨は顔を隠すのに必死なせいであらわになったうなじに、ちゅっとキスを落とす。快感を得はじめていたからだは、面白いくらいに素直に反応した。

 

 ていうか、痛いのも怖いのも我慢できるけど、恥ずかしいのはだめって、こいつの線引きはどうしてこうズレているのだ。

 

 後頭部を撫でながら、張りついたからだに手を回して、背中から手を入れる。

 

 あきはまだ、愛されていつくしまれるということのほんとうの意味を知らない。

 

……っ」

「いやじゃないなら、続けるけど、怖くなったらいって。恥ずかしいとかはいいけど、怖いならやめるから」

 

 嘘でも怖いっていえばやめるというのに、素直で純朴なあきにその選択肢はない。反応したそこに刺激を与えないように再びからだを横たえてやると、時雨から顔が見えないようにひたすらに両手で顔を隠される。

 

 時雨からしてみれば、めったにない羞恥の様子はただかわいく煽られてるようにしか感じないのだが、当の本人は必死なんだろう。それがおかしくて、思わず口元に笑みが広がるのを我慢しながら、ノーガードになっている胸に舌を這わす。もう一方の手で下半身を撫でて、刺激を与えた。

 

…………っ」

「あき、顔見せて」

「や……っ」

「恥ずかしい?」

 

 こくこくと何度も頷かれる。

 声を抑えるのに必死なのか、抑えている手の隙間から息がこぼれる。しつこい愛撫に絶えていたが、下着の下まで入ってきた時雨の手がそれにふれると、抑えきれない声がいっそう激しく漏れていく。

 

 だめだ、可愛すぎる。

 

 いやなことはしたくないというのに、切れ掛かった理性が警告するのをよそに、張りついていた腕を無理やり解いて、真っ赤になっている顔に荒っぽい口づけを落とす。

 

……ん、や……っあ……しぐ、や……

「きついだろ。一回出しとくか」

「出す…… ……に、あ、ああ――……っ」

 

 ほとんど経験したことのない感覚なのだろう。かわいそうなほどピクピクとからだを揺らしながら、手の中であきが達した。生理的に溢れた涙をポロポロとこぼしながら息を弾ませる姿は、庇護欲をそそると同時にどこか扇情的で。時雨はあきのからだを覆うようにして、慰めるように何度もキスを落として落ち着ける。

 

(解すものは……ない、か)

 

 ゴムはあったはずだと頭の中で場所を探しながら、達したあきのそれで指先を濡らして、まだ息の整わないからだを後ろ向きに引っくり返す。

 

「あ……し、ぐれ?」

「ちょっと我慢して、他に濡らすもんがないから」

「え、ま……な、なに……まだ……っ」

 

 あらわになった小さな尻の間を縫って、その場所をなでつけながら、ずず、と中へと指を侵入させる。そのきつさに顔をしかめるとともに、近い日でそこにはたしかに誰も入っていなかったことがわかり、安堵する。

 

……っ」

 

 ひゅうっという、緊張した息遣いとからだ。さっきまで明らかに嬌声だったそれが、戸惑いと気持ちの悪さに変わる。さっき一気に吐精したからか、小さなあきのそれも反応が悪い。

 

「痛くないか」

「ん……いた、く、ない」

 

 それだけではない。明らかに、先ほどよりも恐怖に近いような震えが起きている。ルリが呼び込んだ男たちにされたことを思えば当然のことかもしれない。

 

「あき」

 

 震える首筋に舌を這わせ、後ろから包み込むように小さなからだを抱きしめる。

 

「今おまえを抱いてるのはだれだ」

……し、ぐれ」

「そうだ。それを忘れるな」

「ん」

 

 髪の毛をくしゃくしゃと撫でながら、あきのなかに入れた指を動かして探る。ほぐれてきたことを見計らって二本に変えてやってから、どれくらいの時間が経ったか、だんだんとあきの声が艶っぽく変わっていく。すこしずつ、かたくなだったそこが開かれていったときだった。

 

「しぐ…………な、あっ……や、あ……そこ、な、に……っ」

 

 その場所をかすめると、それは一層甲高い、かわいそうなほどの喘ぎ声に変わった。明らかに反応が違う。見つけた、そうつぶやいて、その場所を何度か擦る。先ほどまで萎えていたからだが、みるみるうちに水を打った魚のようにビクビクと震え出した。

 

「や……しぐ、……っ」

「おまえの、いいとこ。覚えた?」

「ん、……あ、ああ……やだ、しぐれ……っ、しぐ、れ……

 

 助けを求めるかのように、あきが何度も時雨の名前を呼ぶ。

 さっきからぐしゃぐしゃにして流れるあきの目元にやさしくキスを落としながら、指の本数を増やしてなかをかきまぜる。

 

(明日、声枯らすか)

 

 まあそのときは、急に声が出るようになったもんだから一気に出しすぎたとでも言い訳すれば良い。いっそ痛々しいほど快楽に従順な声に、疲れたからだには気の毒だろうという想いが一瞬はよぎったものの、ここまで来て引き返せるはずもない。もとより覚悟の上だし、我慢してもらおうとことに及んだのだから、すぐに抑えきれない本能が頭を支配する。

 

「しぐ……れ」

 

 自分に快楽を強いられているというのに、助けてといわんばかりにしがみついてくる甘美なからだに、やさしくしたいという想いとひどくしたいという想いがないまぜになる。

 

 汗ばんだ表情で時雨を見上げて、こちらを伸ばされた手を捕まえて、やさしく指を絡めてやる。濡れたヘーゼルの双眸には、おそらく自分の姿だけが映っているのだろう。

 

 他のなにも、考えないで欲しい。

 

 この後に訪れる自分とあきとを阻む面倒な世間体も、ひと筋縄では結びつかないふたりでの生活も、全部後回しにして。

 

「悪いけど、もう俺も限界だから――息止めんなよ」

……しぐ……あ、ああ……っ」

 

 ただ、つながりたい。

 

「せまいな、おまえんなか。痛いか……

「へ、いき」

「大丈夫じゃなさそうだけど。ほら、こっち向いて」

 

 苦しそうなあきの目元に、何度もキスを落とす。大丈夫じゃないのは一目瞭然だが、あきは頑なに首を横に振った。

 

(まあ、だからといって抜いてやるということもないけど)

 

 狭い。それに、まるで熱を出したかのように熱い。それなのに、同時にめまいがするような気持ちよさと、こいつの中にいるという安心感が広がって脳みそがぐちゃぐちゃになる感覚。

 

「し、ぐれ」

「なに」

「あの、ぼく、知らなかった」

 

 後ろから挿れたせいで、振り返ったあきの顔が乱れた髪の毛に隠れて、その表情がより鮮明に見られなかったのが悔やまれる。

 

「すきな人とこうすると、恥ずかしいけど、ポカポカする」

 

 からだをつなげることの意味を、今日おまえに知らしめるつもりだったのに、教えられたのは自分の方だと時雨は思う。

 

 かつて時雨にとってのセックスは、ホスト狂いの女へ与えるサービスだった。達して、ほんの一握りの快感が押し寄せてきて、すこしだけの安眠が訪れる。女は優越感に浸り、時雨はいいようのない倦怠感に苛まれて。

 

 でも、つながることの温かさも、安堵も、快感もすべて、愛する人となら、

 

「あき」

 

 こんなに愛おしいだなんて、知らなかった。

 

「し、ぐれ?」

「――悪い、限界。きつかったら、やめらんないけど、いうだけいって。善処する」

「ぜん、しょって……なに? わ……!」

 

 ぐるりとあきのからだを回して、再び仰向けになってぽけっとしたままのあきに、時雨は再び口づける。つかの間のまどろむようなやさしい時間があっという間にすぎたことに、あきは気づかなかった。

 

「な、なに、を……あ」

 

 あきのやせ細った両足を掴んだ時雨が、一気に中に入ったそれを深くへと押し込む。引いていた快感が、じわじわと波のように再びあきに押し寄せてくる。何かいおうとするあきを待つことなく、時雨が動く。

 

「あ、……し、しぐ……あああ、や…… ――あ」

 激しく動くたびにあきの良いところを時雨が擦るのと、再び勃ち上がったあきのそれを慰める時雨の手とに、あきはなすすべもなく何度も悲鳴のような嬌声を上げた。いやだ、とか、やめて、とか、とまって、といったが、宣言通り時雨は止まらなかった。

 

「ひどくする、悪い」

……しぐ、たすけ……ああ、あ……やあ……っ」

 

 さっきまでやさしかったのが嘘のように、食べるみたいに噛みつくようなキスをされて、酸欠と快感であきのからだは自分のものではないみたいに、しびれていく。

 

 時雨の背中にぴりっとした痛みが走る。長く監禁状態だったあきは、どうやらまだ爪を切っていなかったらしい。痛みにさえ本能が刺激されるのを感じながら、時雨は小さなからだをただひたすらに貪るだけだった。

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